「自分のことは棚に上げて、よく人に言えるね」——そんなセリフ、聞いたことはありませんか。なんとなく意味はわかるけれど、いざ説明しようとすると言葉に詰まる慣用句のひとつです。
そもそも、なぜ「棚」なのでしょうか。この記事では「棚に上げる」の意味から語源、正しい使い方、混同しやすい「棚上げ」との違いまで、例文を交えてやさしく解説します。
棚に上げるとは?まずは意味をかんたんに
「棚に上げる」とは、自分に都合の悪いことには触れず、知らん顔をすることを意味する慣用句です。とくに、自分の欠点や失敗を見て見ぬふりをしながら、他人のことを言うときに使われます。
たとえば、遅刻の多い人が同僚の小さなミスを責めている場面。「自分の遅刻は棚に上げて」と表現すると、その身勝手さがぴたりと伝わります。
棚に上げる=自分の不都合な点を「なかったこと」にして触れないこと。多くは「自分のことを棚に上げる」という形で、批判する側の身勝手さを指摘するときに使います。
「棚に上げる」の意味
もう少しかみくだくと、「棚に上げる」には次のようなニュアンスが含まれます。
- 自分の落ち度や問題点を、あえて話題にしない
- 都合の悪いことを一時的に脇へどけておく
- 知っていながら、知らないふりをする
共通しているのは「本当はわかっているのに、向き合わない」という姿勢です。単に忘れているのではなく、意図的に避けているところに、この言葉の特徴があります。
読み方と使われ方
読み方は「たなにあげる」です。むずかしい漢字はなく、そのまま読めば問題ありません。
文の中では「〇〇を棚に上げる」という形で使うのが基本です。〇〇には「自分のこと」「自分のミス」「過去の失敗」といった、本人にとって都合の悪い事柄が入ります。
なぜ「棚」なの?棚に上げるの語源・由来
「棚に上げる」の語源は、高い棚の上に物をしまうと、下からは見えなくなるという日常の光景にあります。見えない場所へ置くことで、その存在を意識せずに済む——この感覚が、都合の悪いことを「なかったこと」にする態度に重なったのです。

由来には、おもに次の2つの見方があります。
高い棚にしまうと見えなくなる説
もっとも広く知られているのが、この説です。手の届きにくい高い棚に物を上げてしまえば、ふだんの視界には入りません。目に入らなければ、気にすることもなくなります。
自分の欠点も同じで、わざと意識の外へ追いやれば、向き合わずに済みます。この「見えなくする」動作が、慣用句の意味に発展したと考えられています。
商売で売りたくない品を棚に上げた説
もうひとつ、商売の現場に由来するという見方もあります。お店では、今は売りたくない商品をあえて高い棚へ上げ、客の目に触れにくくすることがあったといいます。

「都合の悪いものは、見えない場所へどけておく」——昔の人の知恵が、そのまま言葉になったんですね。
どちらの説も、根っこにあるのは「都合の悪いものを視界から外す」という発想です。そう考えると、語源と意味のつながりがすっと腑に落ちます。
棚に上げるの使い方|例文でわかる正しい用法
「棚に上げる」は、自分や他人の身勝手な態度を指摘する場面で活躍します。ここでは、よく使われるパターンを例文で見ていきましょう。
自分のことを棚に上げる(最も多い使い方)
もっとも一般的なのが、他人を批判する人に対して「自分のことは棚に上げている」と使うケースです。
- 彼は自分のミスは棚に上げて、人の失敗ばかり責める。
- 片づけが苦手なことを棚に上げて、家族に文句を言ってしまった。
- 自分のことは棚に上げ、後輩の態度ばかり気にしている。
いずれも「本人の問題には触れないまま、他人を非難している」という構図です。批判の言葉に説得力がないことを、やんわり伝えられます。
自分への反省・ツッコミとして使うケース
「棚に上げる」は、他人を責めるだけでなく、自分自身を振り返るときにも使えます。
- 自分のことを棚に上げて言うけど、もっと早く始めればよかったね。
- 棚に上げるようで申し訳ないけれど、私も人のことは言えません。
こうした言い回しは、「わかったうえで、あえて言う」という前置きになります。相手への指摘を、少しやわらかくするクッションとしても便利です。
「棚に上げる」と「棚上げ」の違い
「棚に上げる」とよく似た言葉に「棚上げ(たなあげ)」があります。形は似ていますが、意味するところは別物なので、混同しないよう整理しておきましょう。
| 言葉 | 意味 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| 棚に上げる | 自分の不都合な点に触れず知らん顔する | 人の身勝手な態度を指摘する |
| 棚上げ | 問題の処理を一時保留・先送りにする | 議論や計画を一旦止めておく |
棚上げ=問題を先送り・保留する
「棚上げ」は、解決すべき問題をいったん脇へ置き、処理を後回しにすることを指します。「この件は一旦棚上げにしよう」のように、会議やビジネスの場面でよく登場します。
ここには「自分をかばう」という意味合いはありません。あくまで、物事の判断や処理を保留するニュートラルな言葉です。
混同しやすいポイントの整理
違いのカギは「何を避けているか」にあります。「棚に上げる」が避けるのは自分の落ち度、「棚上げ」が避けるのは問題への対処そのものです。
「自分を正当化している」なら棚に上げる、「結論を先送りにしている」なら棚上げ。批判のニュアンスがあるかどうかで見分けると迷いません。
棚に上げるの類語・言い換え・英語表現
「棚に上げる」と近い意味を持つ言葉は、日本語にも英語にもいくつかあります。場面に応じて言い換えられると、表現の幅が広がります。
類語・言い換え表現
日本語での主な類語は次のとおりです。
- 我が身を顧みず:自分のことを省みないまま行動するさま
- 頬被り(ほおかぶり)をする:知っていながら知らないふりをすること
- 口をぬぐう:関わっていながら、何も知らない顔をすること
ニュアンスは少しずつ異なりますが、「都合の悪いことに触れない」という核は共通しています。文脈に合わせて選ぶとよいでしょう。
英語での言い換え
英語には「棚に上げる」とぴったり同じ言い回しはありませんが、近い意味は次のように表せます。
- ignore one’s own faults:自分の欠点を無視する
- set aside:(問題などを)脇へ置く
- the pot calling the kettle black:自分のことを棚に上げて人を非難する(ことわざ)
とくに最後の表現は「鍋がやかんを黒いと言う」という比喩で、まさに「棚に上げる」に通じる面白い言い回しです。
よくある質問
- 「棚に上げる」はネガティブな言葉ですか?
-
基本的には、身勝手さを指摘するややネガティブな表現です。ただし「自分のことは棚に上げて言うけれど」と前置きに使えば、批判をやわらげるクッションにもなります。
- 「棚に上げる」と「棚に上がる」は同じ意味ですか?
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慣用句として一般的なのは「棚に上げる」です。「棚に上がる」という言い方はあまり使われません。「〇〇を棚に上げる」の形で覚えておくと安心です。
- ビジネスの場面で使っても大丈夫ですか?
-
相手を直接責めるニュアンスがあるため、使い方には注意が必要です。問題を保留する意味なら「棚上げ」を使うほうが無難です。
まとめ|棚に上げるを正しく使いこなそう
「棚に上げる」は、自分の都合の悪いことに触れず、知らん顔をすることを表す慣用句でした。高い棚にしまうと物が見えなくなる——その日常の光景が、語源になっています。



似ているようで意味の違う「棚上げ」とセットで覚えておくと、使い分けでもう迷いません。
「棚に上げる」は自分の落ち度から目をそらすこと、「棚上げ」は問題の先送り。意味を正しく押さえて、ここぞという場面で的確に使ってみてください。














