「にっちもさっちもいかない」という言い回し、誰もが一度は耳にしたことがありますよね。でも、この「にっちも」と「さっちも」、いったい何を指しているのか考えたことはあるでしょうか。
実はこの言葉、江戸時代のそろばん計算から生まれた、とても数学的な由来を持つ表現なのです。漢字で書くと「二進も三進も」となり、そこには「2で割り切れない、3でも割り切れない」という意外な意味が隠れています。
この記事では、「にっちもさっちも」の語源を、そろばんの仕組みから使い方、類語・英訳までやさしく解説します。

にっちもさっちもの語源はそろばんの九九だった
「にっちもさっちも」の語源は、そろばんの割り算で使われる「九九(くく)」にあります。現在の掛け算九九とは別の、割り算専用の九九が江戸時代まで使われていて、そこから生まれた表現です。
「にっちもさっちも」=「二進(にしん)も三進(さんしん)も」の音の変化。そろばんの割り算九九「二進一十」「三進一十」が語源で、「どう割っても割り切れない=身動きが取れない」という意味に発展しました。
漢字で書くと「二進も三進も」
「にっちもさっちも」は、漢字で書くと「二進も三進も」と表記します。普段ひらがなで見かけるため意外に感じるかもしれませんが、辞書にもしっかり載っている正式な漢字表記です。
読み方は「にしんもさんしんも」から変化して「にっちもさっちも」となりました。話し言葉で発音しやすいように、音がつまって変化していったものです。
この「二進」と「三進」という漢字こそが、そろばんの計算用語そのものなのです。
「二進一十」「三進一十」とは
そろばんで割り算をするときに使われていた「帰除法九九(きじょほうくく)」という暗唱用の表があります。その中に「二進一十(にしんいんじゅう)」と「三進一十(さんしんいんじゅう)」という文言が出てきます。
意味はシンプルで、次のとおりです。
- 二進一十:2÷2=1 のこと。「2が1回進んで10になる」と表現
- 三進一十:3÷3=1 のこと。「3が1回進んで10になる」と表現
つまり、どちらも「割り切れて商が立つ」計算を指す用語でした。そろばんの上で珠(たま)をきれいに動かせる、すっきり解決できる計算というわけです。
なぜ行き詰まりを意味するようになったのか
ここで疑問が生まれます。「割り切れる」計算が語源なのに、なぜ「にっちもさっちもいかない」は「どうにもならない」という意味になるのでしょうか。
答えは、否定形で使われたときの意味にあります。「二進も三進もいかない」=「2で割ってもうまくいかない、3で割ってもうまくいかない」。つまり、どの計算方法を試しても答えが出ないという状態を表すのです。

もともとは商売の帳簿で「どう計算しても帳尻が合わない」ときに使われた表現だと言われているんですよね。
そこから転じて、お金のやりくりがつかない状況、さらには物事全般が行き詰まった状況を指す言葉として広まっていきました。
「にっちもさっちも」の意味と使い方
「にっちもさっちも」の基本の意味は、物事が行き詰まって身動きが取れないさまです。多くの場合、後ろに「いかない」「ならない」といった否定形が続きます。
基本の意味(身動きが取れない・行き詰まる)
最も一般的な使い方は、物事が思うように進まず、どんな手段を試してもうまくいかない状況を表すものです。
例文を見てみましょう。
・予定が立て込みすぎて、にっちもさっちもいかない状態になっている。
・交渉が決裂し、にっちもさっちもならないところまで来てしまった。
・車が渋滞にはまり、にっちもさっちも動けない。
どの例も、選択肢が尽きて前にも後ろにも進めない状況を表しています。
金銭的に困窮した状況での使い方
語源が「帳簿の計算」にあることから、特にお金のやりくりに困った状況で使われることが多い言葉です。
次のような使い方が典型です。
- 借金が重なって、にっちもさっちもいかない。
- 売上が落ち込み、資金繰りがにっちもさっちもならない。
- 家計が赤字続きで、もうにっちもさっちもだ。
「資金繰り」「家計」「借金」といった金銭関連の語とセットで使うと、語源の意味合いが自然に引き出されます。
現代のビジネス・日常会話での使用例
現代では金銭以外の場面でもよく使われます。特にビジネスシーンや日常会話で、次のような使い方が一般的です。
ビジネス:案件のスケジュールが重なり、にっちもさっちもいかない状況です。
プライベート:仕事と育児でにっちもさっちもいかず、週末は疲れ果てている。
日常:引っ越しの荷物が多すぎて、部屋がにっちもさっちもの状態だ。
少し古風な響きはあるものの、現代でも幅広い世代に通じる表現です。ビジネスメールなど改まった場では「立ち行かない」「八方塞がり」などに置き換えるとより自然でしょう。
にっちもさっちもの由来をもう少し深掘り
語源の背景をもう少し掘り下げると、江戸時代の商人文化やそろばん教育の様子が見えてきます。言葉の成り立ちを知ると、日常で使うときの解像度がぐっと上がりますよ。
帰除法九九(きじょほうくく)という割り算の方法
帰除法(きじょほう)とは、そろばんで割り算をするための計算方法のことです。現代の筆算とは違い、そろばんの珠を動かしながら商を立てていく独特のやり方で、江戸時代の商家では必須の技術でした。
この帰除法を習得するために、暗唱用の「九九」が整備されていました。「二進一十」「三進一十」はその代表的な文言で、子どもから大人まで繰り返し声に出して覚えたそうです。



今でいう「くくの九九」のような感覚で、割り算にも専用の九九があったんですね。
江戸時代のそろばん文化と言葉の誕生
江戸時代は商業が発達し、そろばんは商人の必須スキルでした。寺子屋でも「読み・書き・そろばん」として教えられ、庶民の間にも広く普及しています。
帳簿の計算が合わないとき、商人たちは「二進も三進もいかねえ」とぼやいたと言われています。そろばんの珠をはじいても答えが出ない、どう計算しても合わない。その悔しさと行き詰まり感が、やがて言葉そのものに定着していきました。
「二」と「三」が選ばれた理由
なぜ「四進」や「五進」ではなく、「二進」と「三進」なのでしょうか。
これには諸説ありますが、有力な説は次のとおりです。
- 2と3は最も基本的な割り算で、九九の冒頭に出てくるため馴染みが深かった
- 語呂が良く、声に出して唱えやすかった
- 「2でも3でも割り切れない」=最も基本的な計算すらできない、という強調表現になった
小さな数字ほど「そんな単純な計算もできないほど手詰まり」というニュアンスが強く伝わります。言葉選びの妙を感じさせる部分です。
類語・対義語・英語表現
「にっちもさっちも」と似た意味・反対の意味の言葉、そして英語での表現を整理しておきましょう。語彙が広がると、文脈に応じた使い分けができるようになります。
似た意味の言葉(お手上げ・立ち往生・八方塞がり)
「にっちもさっちも」と近い意味を持つ言葉はいくつかあります。
| 類語 | 意味 | ニュアンスの違い |
|---|---|---|
| お手上げ | どうにもできず降参すること | 諦めの感情が強い |
| 立ち往生 | その場から動けなくなること | 物理的な停滞を含む |
| 八方塞がり | どの方向にも進めない状況 | 選択肢が完全に絶たれた状態 |
| 手詰まり | 打つ手がなくなった状態 | 対応策の欠如に焦点 |
| 進退窮まる | 進むも退くもできない | やや硬い表現で文章向き |
文脈に応じて使い分けると、文章に表情が生まれます。
反対の意味の言葉(順風満帆・トントン拍子)
「にっちもさっちも」の対義語としては、物事が順調に進む様子を表す言葉が該当します。
- 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):何もかも順調に進むこと
- トントン拍子:物事が軽快に進むこと
- 八方丸く収まる:どの方向も問題なく解決すること
- 難なく:困難なくすらすらと
対義語を知っておくと、状況の対比を表現するときに便利です。
英語ではどう表現する?
英語には「にっちもさっちも」にぴったり対応する一語はありませんが、次のような表現が近い意味で使われます。
・be stuck(身動きが取れない)
・at a deadlock(行き詰まった状態)
・between a rock and a hard place(進退窮まる)
・at one’s wits’ end(知恵が尽きた)
“I’m stuck.” はビジネスでも日常でも使える便利な表現。「にっちもさっちもいかない」のカジュアルな訳として覚えておくと重宝します。
「にっちもさっちも」にまつわるよくある疑問
- 「ニッチ」と関係ある?
-
関係ありません。「ニッチ(niche)」は英語で「隙間」「特定分野」を意味する言葉で、フランス語が語源です。「にっちもさっちも」は日本語のそろばん用語が由来なので、音が似ているだけの偶然の一致です。
- 「二進も三進もいかない」は正しい表現?
-
正しい表現です。むしろこれが本来の形で、「にっちもさっちもいかない」は音の変化したバージョンにあたります。文章では漢字表記、会話ではひらがな表記と使い分けるのが自然です。
- 若い世代にも通じる?
-
多少古風な響きはありますが、一般的な慣用句として辞書にも載っており、ほとんどの世代に通じます。ただしビジネスメールなど改まった場では「立ち行かない」「進退窮まる」などの表現に置き換えると無難です。
- 「もう、にっちもさっちもだ」のように単独で使える?
-
会話では単独でも使えますが、基本的には「いかない」「ならない」と否定形をセットにする使い方が一般的です。単独使用はやや砕けた表現になります。
まとめ:にっちもさっちもはそろばんが語源の言葉



調べてみると、何気なく使っている言葉の裏にはちゃんと歴史があるんだなって感じますよね。
「にっちもさっちも」は、江戸時代のそろばん計算から生まれた表現で、漢字では「二進も三進も」と書きます。割り算の九九「二進一十」「三進一十」が由来で、「2でも3でも割り切れない=どんな方法でもうまくいかない」という意味に発展した言葉です。
・漢字表記は「二進も三進も」
・語源はそろばんの割り算九九(帰除法九九)
・もともとは帳簿計算が合わない金銭面での使用が中心
・現代では仕事・日常の行き詰まり全般に使える
・英語では “be stuck” が近い表現
語源を知ると、普段の使い方にも奥行きが出てきます。次に「にっちもさっちも」という言葉を口にするとき、そろばんの珠を弾く音を少しだけ思い出してみてください。江戸の商人たちの苦労が、ふっと身近に感じられるかもしれません。










